ICL手術を受けるにあたり、老眼が始まる45歳前後以降は手術適応外とされてしまう事があります。ではこの老眼が始まる年齢の人たちは見えにくさをどうしたら良いのでしょうか。
実はICLでは老眼を治すことができませんが、老眼用のICL「IPCL」というものがあります。そこでここでは「老眼用ICLであるIPCLについて」解説していきます。
近視をどうにかしたいのに老眼の年齢だからと手術受けられなかった方や、老眼を不便に感じている方にも治療があるということについて理解を深められ、快適な見え方を手に入れる第一歩となりますのでぜひ読んでみてください。
ここでわかること
・老眼用ICLであるIPCLについて
【自己紹介】
眼科勤続年数・約15年の現役視能訓練士(国家資格保有の眼科検査員)です。
関東の端っこの小さい病院で細々とICLやLASIKの手術に関わっています。
老眼用の眼内コンタクトレンズである「IPCL」について、最近学会で報告があったり複数の病院でおこなわれていると聞いています。
そのため勉強した事・聞いた事をふまえて記事を書いています。
ICLではなぜ老眼を治せないのか
ICLという近視矯正手術がありますが、これは主に遠くが見えにくい人が遠くを良く見えるようにするためにおこなう手術です。
老眼の年齢に達していない人は遠くが見えるようになったと同時に近くも不自由なく見えますが、ICL手術をおこなった人も年齢と共に老眼は起こります。
ICLは遠くを見えるようにするための手術なので、老眼が始まって近くが見えにくくなっても近くの見え方まではカバー出来るものではありません。
もともと近視の方は近くが見えやすいのでわかりにくい方も多いですが、遠くをしっかり見えるように合わせたコンタクトや眼鏡をして本などを読んだときに見えにくさがあると老眼が進んでいる状態です。
遠近両用眼内コンタクトレンズ・IPCLとは
最近注目されている「遠近両用眼内コンタクトレンズ・IPCL」は、ICLと同じように角膜を削らずに近視を治すことができ、老眼を自覚し始める人に遠くも近くも見えるようなレンズ・IPCLを眼の中に入れることでどの距離の物も眼鏡やコンタクトレンズなしで見えるようになります。
ICLは角膜を削らずに近視を治療できるという事で人気上昇中の手術ですが、これに対し老眼にも対応できるレンズがIPCLということです。
ここで一つ注意点があります。
老眼治療の内、眼の中にレンズを入れる手術の際に使用する「眼内レンズ」は
①白内障手術の際に挿入する眼内レンズ
②白内障手術をせずに挿入する眼内レンズ
この二つの眼内レンズがありますが、白内障がない人は②の手術しか受けられません。
よくある間違いですが、ここでは白内障手術の時に使用する眼内レンズの解説はしていません。
IPCLは白内障手術とは関係ないので注意してくださいね。
ICLとの違い
眼の表面を削らずに眼の中にレンズを入れる手術方法や、長期的に安定した視力を得られたり強い近視にも対応したり何かあった時は取り出すこともできるなどといった事には大きな違いはありません。
違いというと、それは「歴史」と「レンズそのもの」に違いがあります。
ICL | IPCL | |
使用開始 | 日本での取扱いは2003年から | 日本での取扱いは2015年から *他国で2014年発売 |
症例数 | 全世界で100万件以上 | 40ヵ国以上で10万件以上 |
認可について | 1997年 CEマーク(ヨーロッパ) 2010年 日本での厚生労働省 | 2017年 CEマーク(ヨーロッパ) *日本での認可なし |
素材 | コラマー | アクリル |
固定足 | 4本 | 6本 |
Hole | 1つ | 7つ |
他 | 加入度数 +1.5/+2.0/+2.5/+3.0/+3.5/+4.0 |
ICLはすでに20年以上前から使用されていたもので、日本での厚生労働省の認可も下りており症例数も世界中で100万件以上にものぼっていますが、IPCLはまだ発売から8年足らずで日本ではまだ厚生労働省の認可も下りてなく、症例数もICLに比べるとまだまだ少ないです。
厚生労働省の認可が下りていないと聞くと不安に思うかもしれませんが、レンズのメーカーが日本に認可の申請をしておらず認可がおりていないだけだという事もあり危険なレンズではありません。
*日本の厚生労働省にあたる、ヨーロッパでのCEマークでの認可はおりています。
レンズそのものについては素材が違いますが、ICLのコラマーは人との親和性が良く眼に入れても異物として認識されにくく、IPCLのアクリルはタンパクが付着しにくくレンズの表面がスムーズで見え方が良いとの違いがありますがどちらも眼の中に入れて問題のないレンズです。
どんな人に対象か
老眼の自覚がある人はICLでなくIPCLを勧められるでしょう。
また老眼の自覚がなくとも40歳前後以上の人であれば今後の事も考慮してIPCLを勧められる可能性は高いです。自分にはICLとIPCLのどちらにメリットがあるか医師とよく相談して決めてみてください。
デメリットはある?
近視が治り老眼までカバーするIPCLではありますが、デメリットもしっかり理解しておきましょう。
随分抑えられているとは言われていますがハローグレアと言って光をまぶしく感じたり輪に見えたりする現象が起こると言われており、夜間の運転を多くする人は注意が必要です。
他には眼の中にレンズを入れる手術なので眼内炎といったリスクや、自費なので費用が高いといった事が挙げられます。
**ハローグレアについてこちらの記事もどうぞ**
費用
保険診療ではなく自費診療なので、各病院によって値段の設定が様々です。
東京都内での相場を見てみると70万円台から90万円くらいの病院が多く、品川近視クリニックの両眼74万(乱視用は両眼で10万追加)がほぼ最安値に近い値段設定です。
ICLは最安値で40万円台で手術を受けられるところもありますので、IPCLのほうが費用が高いことがわかります。
どこで手術を受けられるか
ICL手術をおこなう全ての病院でIPCL手術ができるわけではありません。以下に東京都内で手術を受けられる病院を一部挙げますが、まだあまり多くの施設で手術を受けられるわけではないようです。
最寄駅 | 費用(税込み) | |
品川近視クリニック | 有楽町駅 | 両眼74万(乱視は両眼で追加10万) |
先進会眼科 | 西新宿駅 | 片眼44万(乱視は+6.6万) |
アイクリニック東京 サピアタワー | 東京駅 | 両眼88万(乱視98万) |
冨田実アイクリニック銀座 | 東銀座 | 両眼104万2800(キャンペーンで87万7800) |
アイケアクリニック | 日本橋駅 | 両眼70万(乱視は80万) |
あおば眼科 | 西新井駅 | 片眼36万+別途毎回診察代1500円と点眼1本800円 |
中原眼科 | 町田駅 | 両眼77万(乱視836000) |
*東京でIPCLの手術を受けられる病院についてより詳しく以下の記事にまとめています**
*大阪でIPCLの手術を受けられる病院については以下の記事にまとめています*
他の老眼の治療方法について
老眼の外科的な治療法は、IPCLの他に2つあります。
老眼用LASIK
LASIKと同じように眼の表面の角膜を削る手術方法ですが、老眼用LASIKは角膜を遠近両用コンタクトレンズのような形状に変化されて遠くも近くも見えるようにする治療法です。
中には遠くと近くが見えるだけでなく、中間距離の見え方の改善もできるLASIKの機械もあるようです。
インレー
インレーとは、眼の表面の角膜にカメラインレーという薄く小さなリング状のフィルムを挿入することでピンホール効果を生み出し、遠くも近くも見えるようになる手術です。
ピンホール効果とは目を細めると物がよく見えるようになる現象と同じで、眼の中に入る光の束を細くする事でピントを合わせることができます。
まとめ
遠近両用眼内コンタクトレンズ・IPCLについて解説しました。
老眼の年齢だからと近視治療を諦めることなく、様々な治療方法がありますのでぜひ検討してみてください。
**他、ICLの年齢制限についての記事もあわせて読んでみてください**